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2005年06月11日
哀しみの白鳥
どんよりした日、中瀬沼の展望台に行く途中どこからか泣き声が聞こえてきました。ちょっと小さな声だったので「気のせいかしら」とそのまま歩いて行くと泣き声はだんだん大きくなってきました。
「まあ、きっと小さな子が道を間違えて一人ぼっちになってしまったんだわ」と思い、声のするほうを見ましたが人影はありませんでした。
「だれかいるの。いるのなら教えて」
「こっちよ。こっちなの」と小さな池の方から声が聞こえてきます。
「わあ、大変。溺れないうちになんとかしなくちゃ」
わたしは大急ぎでその池に向かって走りました。
「ああ、あなた来てくださったのね。わたしいつもこの道を通る人に聞こえるように声を出すのに、みんな気づいてくれないの。来てくれてありがとう」
池を見ると一羽の白鳥さんが苦しげに下を向いていました。あんなに真っ白だった羽は新緑の精のいたずらでしようか、緑色に変わってしまっていました。
「わたし3月猪苗代からシベリヤに帰るはずだったのに、怪我をしてここに来てしまったの。わたしのいのちは短いわ。でも最後はシベリヤに行きたい」
kikiも白鳥さんの言うことはよくわかります。
「大丈夫よ、わたしが帰してあげるからね。いい子だから泣かないでね」
「ほんとう」と白鳥さん。
「わたしうそつかないわ。今夜帰してあげる」
ご存知でしょうがkikiは魔女です。なのでシベリヤまで運んであげようかと思いましたが、kikiの力ではちょっと遠いです。白鳥さんの羽は緑に変色しているもののまだまだ元気そうでした。天気のよい日近くの不動滝には虹がかかります。この虹って不思議な力があるんですよ。みなさんは夜の虹をご覧になったことはないでしょう。昼の虹はわたしたちをだますための仮の姿なんです。
あたりが暗くなるころ、不動滝の光輝く虹がやってきました。
わたしが「お願い、虹さん」と言うと、虹はその七色にあふれる光を白鳥さんの羽に当てました。最初、苦しがっていた白鳥さんは羽の色が緑から白に変わるにつれて元気になっていきました。そして助走をして大空に飛び立っていきました。
「ありがとう、また来年くるわね」と言っているかのようなさえずりが大空から聞こえました。
kikiの魔法はすばらしいですって。いいえkikiは何もしていません。ただ、白鳥さんのそばにいただけです。白鳥さんは自分の力で帰って行ったのです。虹さんの光もきっかけにすぎません。それどころかこれから生きる力を白鳥さんからいただいたような気さえします。しばらくしたらまたこの池に行きたいと思います。白鳥さんはいないでしょうがその池にはわたしたちの思い出がたくさん詰まっているからです。
投稿者 kiki : 17:10 | コメント (2) | トラックバック (0)