残念ですが引き返そうと思ったちょうどその時「待ってわたしたちに会いに来て」という声が聞こえました。
「でもこの姿ではわたし行けないわ」
「いいのよ。ちょっと待ってね」
しばらくすると、ドレスの裾がミニスカートみたいに短くなりました。
「いやーん」とわたしが小さい声を出すと、いつの間にかミニスカートの下に山歩き用のパンツをはいていました。
トップも同じように長袖のブラウスを上から着ていました。
「わあ、これなら登れるわ。誰か魔法でも使ったのかしら」
とわたし魔女なのにそんなことを考えてしまいました。
少しずつ登ると高原の風がわたしの長い髪を揺らし、とてもさわやかでした。
初夏の山登りってとても楽しいですね♪
鎌沼への道を途中まで登ったとき「わたしよ」という声がしたので振り向くと、小さく可愛らしいピンクのドレスを着たイワカガミさんがたくさんいました。
「ようこそキキちゃん、そのドレスとても似合うわよ。6月に土湯のお姫さまからもらったのね。ヒメサユリさん、ずっとお病気だったけど治ったかしら」
「まあ、あなただったのね。ヒメサユリさんは少しずつよくなっているみたいよ。あなたのドレスもとてもかわいいわ。まるで妖精みたいね」とわたしが言うと、
「わたしは妖精なんですよ。あなたと同じ。だからこうしてお話ができるのよ」とイワカガミさんが答えました。
わたしは驚きました。
「えっ、あなたが妖精なのはわかるけど、わたしは普通の女の子よ」
しばらくするとわたしの体が軽くなっていきました。わたしはイワカガミさんといっしょに宙を飛び鎌沼まで飛んで行きました。
「ほらね。あなたは魔女だけでなく妖精なんですよ」
鎌沼に着くとわたしドレス姿に戻っていました。
わたしはすべてを受け入れることにしました。抵抗しても仕方がありません。それより今わたしに与えられたことを楽しんだほうがいいのかもしれません。
キキは普通の女の子であり、魔女でもあり、妖精でもあります。そしてどういうわけかもう一つエミリーという真の名前ももっています。
これでもいいですよね。
そんなわけでわたしピンクのドレスを着て、イワカガミさんといっしょに鎌沼を歩きました。
わたしはピンクのドレス姿で鎌沼を歩くのが夢だったんです。思いがけず実現してとてもうれしいわ♪
鎌沼のやさしい風に包まれて、ひとときの安らぎの時間を過ごしました。
イワカガミさんからは同じピンクのくつとネックレスをいただきました。
わたしたち来年はお月さまの舞踏会にみんなで参加する予定です。それまでヒメサユリさんが治っていますように。キキからのお願いよ。
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